この記事の目次
1.概要
写研のフォント見本帳
モリサワOpenTypeフォントの共同開発で写研と合意することになった。
写研フォントって何という人が多いと思うが、2000年頃までデファクトスタンダードとして使われていたフォントである。文字のあるところ例えば、雑誌や広告、チラシ、テレビのテロップ、看板、教科書、学習参考書、漫画の吹き出し、新聞、道路標識には殆ど写研フォントが使われていた時代があった。
最近はYouTubeの古い歌番組の歌詞や古い標識、競馬新聞の馬柱、古い赤本ぐらいしか見かけなくなってしまった。
写植機が無くなって、写植や製版がDTPに置き換わり、それとともに忘れ去られてしまったフォントである。
写研のフォントはかなりの種類があるが、電算写植になって使うことが出来たフォントはゴナ、ナール、石井明朝、石井ゴシックなどを含む52書体である。最後のWindowsベースの編集機Singisでは表示用のTrueTypeフォントが搭載されていたが一般のソフトからは使用できないようになっていた。
一応写研とモリサワは元々同じ会社であったが、フォントを写研が、メカはモリサワが持って泣き別れた経緯がある。2024年モリサワから順次リリースされるようだ。近年写研経営者の交代もあり、販売方法や課金方式など様々な見直しがあるのだろう。
2.写研フォントを使うには
自分もホームページを作成するときに、ゴナやナール、石井特太明朝、ファン蘭などを使いたいときがあるが、一般には販売されていないので、パソコンで使うことができない。現在写研フォントを使う方法としては以下の4つの方法がある。
1つは写研の編集機と出力機を使うことである。写研の編集機はGRAF(MS-DOSベースの専用機)、Singis(Windowsベースの専用機)、SAMPRAS-C(UNIX Xwindow)という編集機があり、それぞれ専用の機械が必要になる。(ソフトだけでは売っていない)GRAFは画面に疑似フォント(明朝、ゴシック)しか表示されない。また、GRAFにはPage16というオプションがついていないと、別に組処理装置で組処理をしないと、出力用のデータが出来ないので、Page16は必須である。それぞれの編集機から印字用のマルチデータというのを作り、出力機で出力すると紙や印画紙、フィルム、刷版に出力することができる。
例えば、紙に出力するのはSAGOMES-GLを使い、印画紙などに出力するにはSAPLS-Laura、CAなどそれぞれ目的に応じた出力機をつかうことになる。しかし、現実的にそのようなマシンが入手できるのかはわからない。かなり古いハードを使用しているので、WindowsのsingisにしてもWindowsNTか2000かという世界なので、このブログにもあるような仮想化を使うなどが必要になるだろうが、プロテクト用のドングルが動作するのかとか色々問題はあるだろうから正常に動作させるのは難しいのではないだろうか。
また出力するのに出力装置が必要になるが、昔は写研のデータを出力してくれる出力センターがあったが、今は見かけなくなった。そのため、現実的には難しいのではないかと思われる。
2つ目の方法は手動写植機を使う方法である。手動写植機というのはガラスの上に文字がネガ上になったものが敷き詰められている文字盤というものにシャッターで1文字1文字写真を撮りながらフィルムや印画紙に焼き付ける機械である。文字盤には殆どの写研書体があり、文字盤さえあれば、先に述べた電算写植機の52書体以外の書体も使うこともできる。しかし、これも入手が難しくなっており、オークションサイトやメルカリなどで入手するしかない。また、手動写植機は鉄の塊で多くのレンズが搭載されており、100kg以上の重量がありも中古で入手したとしてもメンテがされていないと動かないかもしれないので、購入の際は注意を要する。また消耗品の印画紙やそれを現像する現像液や定着液など代替品を探さなければならない。
3つ目は写研データをテキストデータとしてSAPCOLという言語を使って組むことである。SAPCOLはポストスクリプトのような感じで、テキストデータにページ指令や組み方向や文字の大きさ字詰め、行送り、書体等の情報をテキストで入力していく。それぞれの指令はファンクションと呼ばれ外字を作ってパソコンに登録しておけばメモ帳などに表示させることもできる。そこで組んだものをIBMの1メガフォーマットのフロッピーに入るように変換し、組処理機で組処理をかけて印字データを作成する方法である。しかし今からこの方法を使うのは結構ハードルが高い。まずSAPCOLというページ記述言語を覚えなければならないのと、IBMの1Mフォーマットに変換するソフトを入手するか作らなければいけない。また写研の文字コード表も必要になる。さらに組処理機を手に入れなければならない等一般の人にはかなり難関であろう。
4つ目は写研データに変換してくれるサービスを利用することである。Googleなどで「写研 出力」と検索すると出てくると思うが、データを提供し、PDFにしてくれるサービスである。PDF出力オプションが搭載されたSingisという編集機がまだ動くのであれば、そこからフォントをエンベットしたPDFデータを作成することができるだろう。Singisを使っていない場合は上に書いた手動写植機を使って印画紙にし、スキャン後Illustratorでアウトラインを取っているものと思われる。Singisについても直接インクジェットプリンタでも印刷できるので、そのぐらいの品質でよければそれをスキャンしてJPEGなどの画像として使うことはできる。どんな方法を使っているかはそれぞれのサービスによって異なるので、それぞれのサイトで確認するとよい。
OpenTypeフォントが開発されれば(多分SingisのTrueTypeはあるはずなので、技術的にはすぐできると思うが)上のような方法を使わなくても普通にパソコンで使えるようになるのだろう。
3.今後写研フォントの使われ方
今後の写研フォントの使われ方だが、まず思いつくのは、モリサワの新ゴと写研のゴナの問題である。モリサワが写研のゴナに酷似しており、写研がモリサワを訴えたが、大阪高裁で却下され、写研が控訴せずに終わっている。これをどのように販売するのかは注目される。それはともかくとして、写研の書体は特に縦組できれいに組むことができる。写研書体で組んだ小説は読んでいても目が疲れない。もちろん横組でもきれいなのだが、開発にかなりの人手と時間をかけており、縦に組んでも横に組んでも、単語や熟語等様々な文字の組み合わせでテストし、セット幅などの設定が綿密にされている。そのため、他社のフォントよりも美しくきれいで読みやすい。恐らく一般の人にはわかりにくいかもしれないが、特に文字を使うデザイナーであれば写研の凄さがわかるであろう。NHKの朝ドラなどで古いテレビ画面に使われるフォントがあるが、本来写研フォントを使うべきところが似たような他社のフォントで代用されているのを見かけることがあるが、やっぱり違和感が出てしまう。例えばアニメだと、おジャ魔女ドレミからプリキュアなどはオープニングやエンディングで写研書体が結構最近まで使われていたが、今は他社のフォントに置き換わっており違和感がある。紅白を見ていても歌詞はナールがやはり安定していた。DTPに置き換わってしまってから年月が経ち、置き換わってしまったものは写研に戻ることは難しいのと、一般の人はともかくデザイナーすらも殆ど知らないと思われるので、まずは広くプロのデザイナーに無料または格安で使わせて、デザインの学校や芸術大学、教育現場に広く普及させ、まずは知ってもらうことから始める必要がある。わかる人からその価値が認められプロが使うようになれば一般の人もまねして使うようになり、再び広く使われるようになっていくであろう。